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 早稲田大学基幹理工学部表現工学科、および国際情報通信研究科・長幾朗研究室は、今日の社会との連係や持続可能な、いわゆるサスティナブルな環境やそのデザインを研究課題のひとつとしています。遠く離れた地にいる母親を見守るシステム、言葉では言い表せない人と人の繋がりを示す方法、ごくありふれた机に表示される遠隔地との会議や共同作業、人や物のシルエットが導くインターネットの世界や仕事についてのガイダンス、伝統工芸などの技術をやさしく理解し体験できるデジタルアーカイブ、生活の知恵や経験を生かしたインタフェースデザイン等々。これらの提案の多くは、無駄なエネルギーや操作を必要としない低コストの環境であり、また人と人、そして社会や都市、そして地域の繋がりを感じさせるデザインです。日本国内に留まらず、韓国・台湾・中国・欧米等の国から集まった学生は、それぞれの慣習や概念の差違を超えて協同し、さらには共生可能な社会とは何かを実現しようとしています。学生としての稚拙な表現も見受けられますが、若い感性ならではの試みを是非ご高覧下さい。



 私たちは、先の阪神・淡路大震災、そして東日本大震災と大きな災害に遭遇し、人間としての存在、そして今日の生活の在り方を自省するに至りました。私たちは、何のために生き、誰のために行動しているのでしょうか。前世紀、そして今世紀は、十九世紀に始まる産業革命以来、地球の様々な資源を猛々しいまでの速度で蕩尽し利用し、ひとつの理念ideeを生んできました。けれども今世紀に至り、これらは急速に萎え、その限界を披瀝しつつあります。枯渇する資源、爆発する人口、高齢化する市民、私たちはついには都市を捨て自然に回帰するのでしょうか。あるいは新たなメディアや社会、そして新たな都市を形成し、さらには主義を作り出すのでしょうか。かつて、スーザン・ジョージは「なぜ世界の半分が飢えるのか」と問い掛けました。今日、これらの分布は大きく変化していますが、また新たな課題を生み出しています。ドナルド・ノーマンは「複雑さと共に暮らすこと」において、秩序の喪失と複雑性が本来の根源ではないかと問うています。これらの課題を解き明かすため、私たちは次代のメディア、そしてそのデザインについて様々な提案を試みています。


スーザン・ジョージ(Susan George, 1934-)
「 なぜ世界の半分が飢えるのか ─ 食料危機の構造」
ドナルド・ノーマン(Donald Arthur Norman, 1935 - )
「複雑さと共に暮らす ─ デザインの挑戦」
















 十五歳の頃にふと手にした画集にルドゥーの「ショーの製塩工場」、そしてブーレーの「ニュートン記念堂」を見掛け、その奇想に囚われてしまいました。不可思議な球体の建築、そしてこれを囲む理想都市。想像の極限を超えて形象を可能とした術に魅了されました。図書室の片隅で密やかに見た記憶は永らく心の領域を占め、現実の出来事が何とも陳腐に映りました。創造する事とは何か、幻想を形とする事の意味とは。人類はそのようにして、その創造の歴史を育んできたのでしょうか。後に「迷宮としての世界」にマニエリスム芸術の退廃を見て、また「怪物の解剖学」にも感嘆しました。美術大学を目指し在籍していた美術学校にも通わず、駿河台の古書店にダダやシュールと渉猟する事が日課となりました。現実から遊離した世界が心地良く、大学受験の夢も遠のいていました。このような時期に、とある美術専門の古書店でデュシャンを見掛け、人と機械の関係、いわゆる機械主義machinarismへの憧憬が近しいものに思われました。後に部品を買い集めて簡単な数ビットの稚拙なコンピュータを組み上げ、おずおずと動き出した際に、デュシャンやルドゥーの想像の衣の裾にわずかに触れたようにも思われました。思い通りに機械を操り、その世界を構築する事が自身の夢想を創造する事のように思われました。けれども意思に反して機械はその呪縛から逃れようとするかのように気ままに稼働するばかりでした。このようにして人の機械の関係、そして人と人を介する機械、そしてこれらは依拠したコミュニケートを促すだけでなく、一方では疎外する存在として操る事の困難な世界として捉えるべきではという事に気付きました。このような幻想とも夢想とも曰く言い難い言葉を、時折学生たちはどのように捉えているのだろうかと思われます。彼らは今日の世界をいとも容易く逍遥していますが、その背後に暗く拡がる世界は知り得ないのでしょう。けれども彼らもまた今日のメディアやその世界に倦んでいます。果たして彼らは創造の力を得て新たな奇想を生み出し得るでしょうか。


クロード・ニコラ・ルドゥー(Claude Nicolas Ledoux,1736-1806)
「ショーの製塩工場」
エティエンヌ・ルイ・ブーレー(Etienne Louis Boullée, 1728-1799)
「ニュートン記念堂」
グスタフ・ルネ・ホッケ(Gustav René Hocke, 1908-1985)
「迷宮としての世界」
マルセル・デュシャン(Marcel Duchamp, 1887-1968)
「彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも」
種村 季弘(たねむら すえひろ、1933-2004)
「怪物の解剖学」

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